2月の剪定シーズン。足元に散らばった枝を見て「もったいないな」と思ったことはありませんか? その直感は正しいです。実は、冬の枝には春に芽吹くためのエネルギーがパンパンに詰まっているのです。
これを捨ててしまうのは、お財布を捨てているのと同じこと。
今回は、剪定で出た不要な枝を使って、新しい盆栽を無料で生み出すテクニック「休眠枝挿し(きゅうみんえだざし)」について解説します。
なぜ「2月」の挿し木が成功するのか?
挿し木には、6月頃に行う「緑枝挿し(りょくしざし)」と、2月〜3月に行う「休眠枝挿し」の2種類があります。 初心者の方にこそ、私は今の時期の「休眠枝挿し」を強くおすすめします。
理由1:枝が「エネルギーの缶詰」状態だから 冬の間、落葉樹は葉を落として休眠していますが、その幹や枝の中には、春に爆発的に成長するための養分(炭水化物など)を高濃度で蓄えています。 つまり、枝自体が「生きるための弁当箱」を持っている状態なので、根が出るまでの体力が長持ちするのです。
理由2:葉がないので乾きにくい 挿し木の最大の敵は「乾燥」です。葉がある時期の挿し木は、葉から水分が蒸発(蒸散)してしまうため、管理がシビアです。 しかし、2月は葉がないため、水分ロスがほぼありません。これが初心者でも失敗しにくい最大の理由です。
どの木なら増やせる? 向き不向きチェック
すべての木が挿し木できるわけではありません。剪定した枝が以下の種類なら、ぜひチャレンジしてください。
◎ 成功率が高い(初心者向け)
- カエデ類(唐カエデなど): 非常に発根しやすいです。
- ケヤキ・ニレケヤキ: ほぼ成功します。
- ボケ・チョウジュバイ: 花物ですが、簡単に着きます。
- ヤナギ類: 水に挿しておくだけでも根が出ます。
○ チャレンジする価値あり
- モミジ類: 品種によっては着きにくいものもありますが、ヤマモミジ系なら比較的容易です。
- サツキ・ツツジ: 細かい枝でも着きます(※土は鹿沼土を使用)。
△ 今回は除外(難しい)
- マツ(松)類: 松の挿し木は非常に難易度が高く、特殊な管理が必要です。
準備するもの:成功率を左右する「三種の神器」

道具選びでケチると失敗します。特に「土」と「刃物」は重要です。
- 清潔な土(必須)
- 赤玉土(細粒〜小粒): 庭の土や使い古しの土は絶対NGです(雑菌がいると腐ります)。隙間ができないよう、粒の細かいものを使います。
- よく切れるナイフ・カッター
- 剪定バサミで切った断面は細胞が潰れています。最後に鋭利な刃物でスパッと切り直す必要があります。
- 発根促進剤(ルートンなど)
- 切り口に塗る白い粉です。なくてもできますが、あると成功率が3倍違います。数百円で買えるので用意しましょう。
実践!「休眠枝挿し」5つのステップ
それでは、実際にやってみましょう。 手順はシンプルですが、一つひとつの工程を丁寧に行うことが大切です。
STEP 1:挿し穂(さしほ)を作る 剪定した枝の中から、充実した(太すぎず細すぎず、鉛筆の芯〜鉛筆くらいの太さ)枝を選びます。
- 長さ: 5cm〜7cm程度に切り分けます。
- 節(ふし): 1本の挿し穂に、必ず「2つの芽」が含まれるようにします。
- 上端: 芽の少し上で切る。
- 下端: 芽の少し下で切る。
- 上下の確認: 枝には上下があります。芽が上を向いている方が「天」です。逆さに挿すと発根しません。
STEP 2:水揚げ(みずあげ) 作った挿し穂を、コップに入れた水に浸けます。
- 時間: 最低1時間〜一晩。
- コツ: 水に「メネデール」などの活力剤を数滴垂らすと、水吸いが良くなり成功率が上がります。
STEP 3:切り口の調整(最重要!) 水から上げたら、土に挿す側(下側)をナイフで切り直します。

- よく切れるナイフで、斜めにスパッと切ります(断面積を広げるため)。
- 反対側を少しだけ切り返し(くさび型にする)、さらに吸水面を確保します。
- 注意: ギコギコせずに一発で切ってください。細胞を潰さないことが命です。
STEP 4:発根促進剤を塗る 切り口が濡れているうちに、発根促進剤(ルートンなど)の粉を薄くまぶします。

- コツ: つけすぎは禁物です。チョンとつけて、余分な粉はトントンと落とします。
STEP 5:土に挿す いよいよ土への挿し込みです。 ここでのポイントは、「枝で土に穴を開けない」こと。無理に押し込むと、塗った薬が剥がれてしまいます。

- 下穴を開ける: 割り箸で、土にズボッと穴を開けます。
- 挿入: その穴に優しく枝を差し込みます。深さは枝の半分くらいが埋まる程度。
- 固定: 指で周りの土を軽く押さえて、枝がグラグラしないように密着させます。
挿した後の管理:ここが運命の分かれ道
挿し木は「挿して終わり」ではありません。 むしろ、ここからの管理が本当の勝負です。
1. 置き場所
- 風の当たらない場所: 風で枝が揺れると、出てきたばかりの繊細な根が切れてしまいます。
- 明るい日陰: 直射日光は強すぎます。木漏れ日程度がベストです。
2. 水やり
- 絶対に乾かさない: 表面が乾きかけたら、底から水が出るまでたっぷりあげます。
- 優しくあげる: 強いシャワーで土を掘り返さないよう、霧吹きや細かいハス口を使います。
3. 【超重要】「ぬか喜び」に注意! 3月〜4月になると、挿した枝から可愛い新芽が出て、葉が開きます。 ここで初心者は「やった!成功した!」と喜び、肥料をあげたり、鉢を動かしたりしてしまいます。
これが最大の罠です。
実はこの段階では、「まだ根っこは出ていません」。 枝の中に蓄えられていたエネルギーだけで葉を出している状態(これを「空砲」や「のぼり」と言います)です。
- 葉が出ても、根が出るのは6月頃です。
- それまでは絶対に、枝を抜いて確認したり、触ったりしないでください。
- 好奇心で「根っこ出たかな?」と抜いてしまった瞬間、その苗は死にます。
いつ鉢上げ(植え替え)できる?

成功していれば、6月の梅雨頃には白い根が出ています。 しかし、安全を期すなら、その年はそのままその鉢で育て、「翌年の春」に一本ずつ鉢上げ(植え替え)するのが確実です。
焦らずじっくり待つこと。それが盆栽の時間を楽しむ第一歩です。
まとめ:ゴミが宝物に変わる魔法
剪定で切った枝を「ゴミ」として捨てるか、「素材」として活かすか。 この一手間で、あなたの盆栽棚の未来は大きく変わります。
- 道具を揃える(清潔な土・ナイフ・発根剤)。
- 切り口をスパッと綺麗に切る。
- 葉が出ても、半年は絶対に触らない。
この3つを守れば、数年後には「あの時の枝」が、立派なミニ盆栽の森になっているはずです。 さあ、剪定が終わったら、そのまま挿し木の準備に取り掛かりましょう!



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