盆栽棚の中で、ひときわ荒々しい存在感を放つ木があります。その名は「杜松(トショウ)」。
別名「ネズミサシ」とも呼ばれるこの木は、触れると飛び上がるほど痛い鋭い葉と、古色あふれる樹皮で、多くの愛好家を魅了し続けています。真柏や黒松といった王道の樹種とは一味違う、野趣あふれる「通好み」の世界。
「杜松って難しそう…」 「触ると痛いんでしょ?」
そんな風に思って敬遠するのはもったいない! 今回は、その唯一無二の魅力から、日々の管理、そして痛みに耐えて(?)美しい姿を保つための手入れ方法まで、初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。

1. 杜松とはどんな木か?その魅力に迫る
杜松はヒノキ科ビャクシン属の常緑針葉樹です。 日本全国の海岸沿いややせた土地に自生しており、非常に生命力が強いのが特徴です。
「ネズミサシ」の由来
最大の特徴は、なんといっても「触ると痛い鋭い葉」です。 かつて、ネズミの通り道にこのトゲトゲの枝を置いて侵入を防いだことから「ネズミサシ」という和名がついたと言われています。実際、手入れの時にうっかり強く握ってしまうと、思わず声が出るほどの鋭さを持っています。

荒れる樹皮と「古色」の美
杜松は成長が早く、比較的若い木でも樹皮がささくれ立ちます。赤茶けた樹皮が縦に裂け、めくれ上がる様子は、まるで何十年、何百年も生きてきた古木のような「古色(こしょく)」を醸し出します。
小さな鉢の中に、大自然の断崖絶壁に根を張る巨木のような景色を表現できる。これが杜松最大の醍醐味です。
ジン・シャリのコントラスト
真柏と同じく、幹や枝の一部が枯れて白骨化した「神(ジン)」や、幹の皮が剥がれた「舎利(シャリ)」を楽しむことができます。
- 暗褐色の荒れた樹皮
- 鮮烈で鋭い緑色の葉
- 白く輝くジンの骨感
この3つのコントラストは強烈で、見る者に大自然の厳しさと生命力を訴えかけてきます。
2. 杜松の育て方【基本管理編】
盆栽界には、杜松の管理を表す有名な言葉があります。 「杜松は水を食う」「太陽の申し子」 この2つさえ守れば、杜松は元気に育ってくれます。逆に言えば、ここを外すと失敗します。
【置き場所】太陽が命!日陰は厳禁
杜松はとにかく日光が大好きです。「日向ぼっこ」レベルではなく、直射日光をガンガン浴びるのを好みます。
- 春~秋: 一日中、日が当たる場所で管理します。日照不足になると、てきめんに葉の色が悪くなり、枝が間延びして弱ってしまいます。
- 夏: 真夏の西日も基本的には平気ですが、小さな鉢(ミニ盆栽など)の場合は、鉢土の温度が上がりすぎて根が傷むのを防ぐため、午後からは半日陰に移すか、よしず等で保護してあげると安心です。
- 冬: 寒さには強いですが、乾いた寒風は嫌います。ムロ(保護場所)に入れるか、風除けのある軒下で管理しましょう。冬場は葉が茶褐色に変色することがありますが、これは寒さから身を守るための保護色ですので、春になれば緑に戻ります。

【水やり】「水食い」の名は伊達じゃない
杜松は根が細く、水の吸い上げが非常に激しい樹種です。 「松柏類だから乾燥に強いだろう」という思い込みは禁物です。 杜松に関しては、「乾く前にやる」くらいの気持ちでちょうど良いでしょう。
- 春・秋: 1日1回~2回。
- 夏: 1日2回~3回。朝たっぷりあげても、夕方にはカラカラになっていることがよくあります。
- 冬: 2日~3日に1回。冬でも乾燥させすぎないように注意します。
⚠️ 危険信号: 水切れを起こすと、葉が茶色く変色し、一度変色した葉は二度と元には戻りません(枯れ落ちます)。特に夏場の水切れは致命傷になりやすいため、注意が必要です。
【肥料】肥料食いでもある
成長が早いため、エネルギーとなる肥料もたくさん必要とします。肥料不足になると葉の色が黄色っぽくなり、勢いがなくなります。
- 春(4月~6月): 成長期にはしっかりと「有機固形肥料(油かす等)」を与えます。
- 秋(9月~10月): 冬越しに備えて体力をつけさせるため、多めに与えます。
※真夏(7月~8月)は根腐れの原因になるため、肥料はいったん取り除きましょう。
3. 美しい樹形を作る【手入れ編】
杜松を美しく保つためには、旺盛な成長力をコントロールする作業が必要です。ここが少しだけ「痛い」作業になりますが、道具を使えば大丈夫です。
必須作業:「芽摘み(めつみ)」
春から秋にかけて、新芽がどんどん伸びてきます。 これを放置すると、樹形がボサボサに崩れるだけでなく、内部の枝に日が当たらなくなり、大切な「懐(ふところ)の枝」が枯れてしまいます。
輪郭から飛び出した元気な芽を、こまめに摘み取ることが大切です。
★最重要:必ず「ハサミ」を使うこと! 真柏などは指で芽を摘みますが、杜松の芽を指で摘むのは苦行です。指先が傷だらけになります。 また、無理に引きちぎると傷口が茶色くなり、見栄えが悪くなります。
必ず「芽摘み用のハサミ(切り先が細いハサミ)」を使いましょう。 葉の繊維を途中で切断しないよう、「軸(茎)の部分」を狙って丁寧にカットするのがコツです。葉の途中で切ると、切り口が茶色く変色してしまい、木全体が赤っぽく見えてしまいます。
剪定と針金掛け
- 剪定: 不要な枝や枯れた枝は、春の植え替え時期や秋に整理します。混み合った枝を透かして(間引いて)、内部まで日差しと風を届けることが健康維持の秘訣です。
- 針金掛け: 杜松の枝は、若いうちは柔軟性がありますが、古くなると硬く折れやすくなります。 大胆な曲付けをする場合は、ラフィア(保護材)などを巻いて補強してから行うのが無難です。針金掛けの適期は秋から冬、または春先です。
4. 植え替えと用土
杜松は根の張りが早いため、鉢の中がすぐに根でパンパンになります。 根詰まりを起こすと水の吸い上げが悪くなり、下枝から枯れ上がってしまいます。
- 頻度: 若木は1年~2年に1回。成木でも2年~3年に1回は植え替えが必要です。
- 時期: 3月下旬~4月中旬の、新芽が動き出す頃がベストです。
- 用土: 水はけの良い土を好みます。「赤玉土単用」、または「赤玉土7:桐生砂3」くらいの割合が一般的です。
植え替えの際は、古い土を落とし、長く伸びた根を切り詰めます。ただし、根を切りすぎると一時的に弱ることがあるため、全体の3分の1程度にとどめておくのが安全です。
5. 知っておきたいトラブル対策
杜松を育てる上で、絶対に警戒すべき敵がいます。
最大の敵「ハダニ」
杜松の大敵は、赤ダニ(ハダニ)です。 梅雨明けから夏場にかけての乾燥する時期や、懐の風通しが悪いと発生します。葉の色が白っぽく抜けたり、カスリ状になったりしたら要注意です。
【予防策:葉水(はみず)】 ハダニは水を嫌います。 普段の水やりの際、根元だけでなく「葉の裏側」からも勢いよく水をかける「葉水」を行うことが、最強の予防策になります。 もし発生してしまった場合は、早急に市販の殺ダニ剤を散布して駆除しましょう。
6. まとめ:杜松と暮らす楽しみ
杜松の育成ポイントをまとめます。
- 太陽と水が命。 日当たりでジャブジャブ水をやる。
- 痛みに耐えて芽を摘む。 ハサミを使ってこまめに整える。
- 古色を楽しむ。 小さくても大木の風格が出る。
杜松は、手入れを怠るとすぐに形が崩れますが、手をかければかけるほど、それに応えて引き締まった美しい姿を見せてくれる、非常に「正直な木」です。
チクチクする葉に「痛い痛い」と言いながら手入れをするのも、杜松愛好家の日常であり、不思議と愛着が湧く瞬間でもあります。 ぜひ、あの一本気で野性味あふれる杜松を、あなたの棚場の仲間に加えてみてください。きっと、その力強い生命力に元気をもらえるはずです。



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