「せっかく伸びた枝を切るのはもったいない…」 「もし間違って大切な枝を切ってしまったらどうしよう…」
盆栽を始めたばかりの方が、最もハードル高く感じる作業。それが「剪定(せんてい)」ではないでしょうか。 しかし、心を鬼にしてハサミを入れなければ、盆栽はただの「ボサボサの木」になってしまいます。
剪定とは、単に小さくするためだけの作業ではありません。 木の風通しを良くして病気を防ぎ、将来の美しい樹形(骨格)を作るための、いわば「外科手術」のようなものです。
この記事では、迷える初心者のために、「どの枝を切ればいいのか?」が一目で分かる「忌み枝(いみえだ)」リストと、木に負担をかけない切り方を伝授します。
剪定(せんてい)とは? 芽摘みとの違い
まずは、前回学んだ「芽摘み」との違いを整理しておきましょう。
- 芽摘み:
- 対象: まだ柔らかい「新芽」。
- 目的: 枝数を増やし、今の輪郭をキープする(現状維持)。
- 剪定:
- 対象: すでに硬く木質化した「枝」。
- 目的: 不要な枝を減らし、木の骨格を作り変える(構造改革)。
家で例えるなら、芽摘みは「部屋の掃除や模様替え」、剪定は「リフォームや増改築」のようなものです。 太い枝を切るため、木への負担も大きくなります。正しい時期と方法で行うことが重要です。
切るべき枝はどれ?「忌み枝(いみえだ)」図鑑
剪定で一番難しいのは「どこを切るか」の判断です。 しかし、盆栽には「見つけたら即切るべき枝」という明確なルールが存在します。 これらを総称して「忌み枝(いみえだ)」と呼びます。
このリストにある枝を見つけたら、迷わず根元からカットしてください。
① 胴吹き(どうぶき)・ひこばえ
- 特徴: 幹の途中や、根元から唐突に飛び出してくる強い芽。
- 理由: 木の養分を独り占めしてしまい、上の大切な枝が痩せてしまうため。
② 立ち枝(たちえだ)
- 特徴: 横ではなく、真上に向かって垂直に伸びる枝。
- 理由: 樹形を乱し、非常に強く太くなりやすいため、他の枝の成長を阻害します。
③ 下がり枝(さがりえだ)
- 特徴: 真下に向かって伸びる枝。
- 理由: 盆栽は「古木感」を出すために枝を水平~やや下向きに作りますが、完全に真下に垂れ下がった枝は不自然で、日当たりも悪くなります。



④ 内向き枝(うちむきえだ)・逆さ枝
- 特徴: 幹の方(内側)に向かって逆走して伸びる枝。
- 理由: 自然界ではありえない不自然な枝であり、懐(ふところ)の日当たりを遮ります。
⑤ 閂枝(かんぬきえだ)
- 特徴: 幹の同じ高さから、左右対称に真横に出ている枝。(門のカンヌキのような形)
- 理由: 左右対称すぎると人工的に見えます。どちらか一方を切り落とし、左右互い違いになるようにします。
⑥ 車枝(くるまえだ)
- 特徴: 一箇所(車輪の軸)から、放射状に複数の枝が出ている状態。
- 理由: その部分だけ幹がコブのように肥大してしまい、見た目が非常に悪くなります。メインの1~2本を残して、他はすべて切ります。



剪定に必要な道具
普通の工作ハサミやキッチンバサミを使うのはNGです。 切れ味が悪いと、切り口の細胞を押しつぶしてしまい、そこから腐ったり枯れ込んだりする原因になります。
必須:剪定バサミ
盆栽専用のハサミです。 持ち手が大きく、テコの原理で太い枝も軽い力でスパッと切れます。
- 選び方: 最初は2,000円~3,000円程度のもので十分です。「サツキ用」や「小枝切り」と書かれた万能タイプが一本あると便利です。
推奨:又枝切り(またえだきり)

盆栽特有の、ペンチのような形をしたハサミです。 刃が三日月状に凹んでおり、枝を根元からえぐるように切ることができます。
- メリット: 切り口が凹むため、傷口が盛り上がって治った時に、幹と平らになり、「枝を切った跡」が消えてなくなります。
- 盆栽を本格的にやるなら、ぜひ持っておきたい一本です。
失敗しない剪定の手順
ステップ1:全体を観察する
いきなり切り始めず、まずは鉢をくるくると回して、正面、横、上から全体を眺めます。 「どの枝が忌み枝か?」「どの枝を残せば三角形になるか?」をイメージします。
ステップ2:忌み枝を切る
先ほどのリストにある「明らかに不要な枝(胴吹き、立ち枝など)」から切っていきます。 これらが無くなるだけで、驚くほどスッキリして、本来の姿が見えてきます。
ステップ3:長さの調整
残したい枝の長さを調整します。
- 基本: 枝分かれしている部分のすぐ上で切ります。
- 枝の途中でブツ切りにすると、そこから不自然な芽が出たり、枯れ込んだりします。必ず「葉(または芽)」を少し残して切るのがコツです。
剪定後のケア「傷口保護」
太い枝(割り箸より太いくらい)を切った時は、人間でいうと深い傷を負った状態です。 そのままにすると、切り口から水分が蒸発して枝が枯れたり、雨水から雑菌が入って腐ったりします。
癒合剤(ゆごうざい)を塗る
切り口には、必ず「癒合剤(カットパスター、トップジンMペーストなど)」を塗ってください。 これは人間でいう「絆創膏」や「カサブタ」の代わりになる薬です。
- チューブから出して、切り口が隠れるように少し厚めに塗ります。
- 傷が治ると自然にポロリと剥がれ落ちるか、そのまま樹皮と同化します。
樹種別の剪定時期(カレンダー)
剪定は、木の種類によって適期が異なります。 間違った時期に太い枝を切ると、樹液が止まらずに枯れてしまうことがあります。
雑木類(もみじ、カエデ、ケヤキなど)
- 大剪定(太い枝):冬(1月~2月)
- 落葉して枝ぶりが見やすく、休眠中なのでダメージが少ないベストシーズンです。
- 注意: 春になり芽が動いてから太い枝を切ると、樹液がドバドバ出て止まらなくなります。
- 小剪定(形を整える):梅雨時(6月頃)
- 葉が茂りすぎた時に、軽く透かす程度に行います。
松柏類(黒松、五葉松、真柏など)
- 大剪定:冬(2月~3月中旬)
- 本格的に暖かくなる前に行います。
- 中剪定:初夏(6月頃) または 秋(10月~11月)
- 芽摘み(ミドリ摘み)と合わせて行うことが多いです。
花物・実物(梅、桜、長寿梅など)
- 基本:「花が終わった直後」
- 花が散ったらすぐに剪定します。
- 夏以降に切ると、翌年の花芽(蕾の赤ちゃん)まで切り落としてしまい、来年花が咲かなくなります。
まとめ:剪定は「引き算」の美学
盆栽は、足し算(成長)と引き算(剪定)の繰り返しで作られます。 特に剪定は、不要なものを削ぎ落とし、その木が持つ本来の美しさを引き出す「引き算」のアートです。
最初は「切るのが怖い」と思うのが普通です。 まずは「枯れた枝」と「胴吹き(幹から出る不要な芽)」を切ることから始めてみてください。 それだけでも、木は驚くほどサッパリとし、風通しが良くなって喜びます。
「迷ったら切らない」。これも一つの正解です。 来年、もっと目が肥えてから切っても遅くはありません。焦らず、木と相談しながら、あなただけの理想の樹形を作っていってください。



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