黒松の盆栽づくりにおいて、「軸切り挿し芽」は本格的な樹形を目指すための重要なテクニックの一つです。ここでは初心者の方に向けて、そのメリットや注意事項、具体的な手順をわかりやすく解説します。
軸切り挿し芽のメリット
黒松は幹の根元から新たに芽吹くことがほとんどありません。そのため、種からそのまま育てると、根から最初の枝までの距離が間延びしてしまいます。発芽直後に軸切り挿し芽を行うことには、以下のような大きなメリットがあります。

- 立ち上がり(根から一の枝まで)を短くできる 幹の長さを物理的に短く切り詰めることで、根張りから一の枝までの距離が短い、太くて逞しい本格的な小品盆栽の樹形を作りやすくなります。
- 良い根張り(八方根)が早く作れる 発芽したての苗は、体を支えるために真下へ伸びる太い「直根」を出しますが、この根は鉢植えには邪魔になります。直根を切り落とし、新たに養分や水分を吸収する細根(横根)を放射状に発生させることで、盆栽にとって理想的な根張りを比較的早く作ることができます。
作業前に知っておくべき注意事項
軸切り挿し芽は効果的な反面、植物に大きな負担をかける作業でもあります。以下の点に注意してください。
- 枯れるリスクがある 根をすべて切り落として新しく発根させるため、発根率は100%ではありません。弱い個体や環境によってはそのまま枯れてしまうリスクがあります。
- 絶対にやらなければならない作業ではない 苗の数が少ない場合や、枯らすのが怖い場合は無理に行う必要はありません。通常の植え替えの度に直根の処理を少しずつ続けていけば、時間をかけて良い根張りに仕立てていくことも十分に可能です。
- 絶対に軸(茎)を潰さないこと 切断時に軸の細胞が潰れてしまうと、うまく水を吸えずに枯れてしまいます。ハサミではなく、必ず新品の鋭利なカミソリを使用してください。
軸切り挿し芽の手順
必要なものの準備
- 黒松の苗
- 新品のカミソリ(ガードなどがついていない両刃のもの等が切りやすいです)
- カット台(発泡スチロールや、大根・人参の輪切りなど、カミソリの刃がスッと入り込む柔らかい素材)
- 用土(赤玉土の細粒や極小粒など、目の細かいもの)
- 容器(スリット鉢やビニールポットなど)
- 竹串や細い針金
- 発根促進剤(ルートンやメネデールなど。なくても可能ですがあると安心です)
適期の見極め
時期の目安は地域にもよりますが、おおむね5月頃です。以下のサインのどちらか、または両方が見られたら作業の適期です。
- 根元の軸(茎)が赤く色づいてきたとき
- 葉が開き、真ん中の本葉が伸びてきたとき
苗のカット(軸切り)
カット台の上に苗を寝かせ、葉の付け根から1.0cm〜2.0cmほど下の位置をカミソリで切ります。このとき、断面積を大きくして水を吸い上げやすくするために斜めに切るのがポイントです。カミソリを優しく乗せて軽く引くようにし、スパッと切り落とします。
水揚げ(水に漬ける)
切った苗の軸が水(またはメネデール等の水溶液)に浸かるようにし、1時間ほど漬けて水を吸わせます。松は樹液(脂)が出て浮きやすいので、切り口がしっかり水に浸かっているか確認してください。
挿し床の準備と挿し芽
容器に用土を入れ、鉢底から透明な水が出るまでたっぷりと水をやり、微塵(細かい泥)を洗い流しておきます。 土の真ん中に竹串などで穴を開け、水揚げした苗の断面に発根促進剤(ルートンなど)を薄くつけ、開けた穴に優しく挿し込みます。 挿した後は、周囲の土を寄せたり、霧吹きでやさしく水をかけたりして、用土と苗の軸を隙間なく密着させます。
苗の固定
植物は風などで揺れると発根が止まってしまうため、挿した苗が動かないように固定することが非常に重要です。U字やV字に曲げた細い針金を上から被せるように挿し、葉を抑えて苗が回らないように固定します。
アフターケア
作業後は、明るい日陰で、風ができるだけ当たらない場所で管理します。 発根するまでは絶対に用土を乾かさないように注意し、毎日水やりをするか、薄く水を張った容器にポットごと漬けておく(腰水)と安心です。 約2週間〜1ヶ月ほどで発根し、中心の芽が元気に伸びてくれば成功です。発根が確認できたら、徐々に日当たりの良い場所へ移して管理を続けてください。



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