芽切りは「やる前の見極め」が9割です
黒松の芽切りは、夏の盆栽作業のなかでもっとも人気があり、そしてもっとも失敗が多い作業です。
失敗の多くは、切り方が下手だったからではありません。「切ってはいけない木を切ってしまった」ことが原因です。芽切りは木に大きな負担をかける作業で、体力のない木にやると、二番芽が出ないまま枝が枯れ込み、最悪その木を失います。
ですからこの記事では、切り方の前に「切っていい木かどうか」の見極めをいちばん丁寧に説明します。ハサミを持つ前に、まず自分の木がその資格を持っているかを確認してください。そこさえ間違えなければ、芽切りは決して難しい作業ではありません。
そもそも芽切りとは?なぜ切るのか

春の芽をなぜ切るのか
黒松は春になると、枝先から「ろうそく」と呼ばれる新芽を勢いよく伸ばします。これをそのまま伸ばすと、葉(松葉)が長くなり、枝と枝の間隔(節間)も間延びして、盆栽としては大味な姿になります。
そこで、春に伸びたこの芽を初夏に一度切り落とすのが芽切りです。芽を切ると、木は「もう一度やり直そう」として、切り口の周辺から新しい芽(二番芽)を吹き直します。
芽切りで葉が短く、枝が増える仕組み
この二番芽が、芽切りの狙いです。
一度目の芽より遅い時期に、短い期間で伸びるため、二番芽の松葉は自然と短くなります。黒松盆栽の引き締まった短い葉は、この芽切りによって作られます。
さらに、一本だった芽の切り口から複数の芽が吹くため、枝数が増えます。葉が短くなり、枝が細かく分かれる——この二つが同時に得られるのが、芽切りという作業の値打ちです。
芽切りをしてはいけない木

ここがこの記事の核心です。次に当てはまる木には、芽切りをしてはいけません。
樹勢の弱い木
芽切りは、切ったあとにもう一度芽を吹き直す体力を前提にした作業です。樹勢が弱っている木は、その体力がありません。芽切りをすると二番芽が出ず、枝がそのまま枯れ込みます。
見極めの目安は、春の芽の勢いです。太くしっかりした芽が全体に力強く伸びている木は健全。芽が細く、色が薄く、伸びが揃わない木は樹勢が足りません。植え替え直後の木、病害虫で弱った木も同様に見送ってください。
若木(素材づくりの段階)
まだ幹を太らせている途中の若木には、芽切りをしません。
芽切りは葉を短くし、成長を抑える作業です。太らせたい若木にこれをやると、幹の成長が止まってしまいます。素材づくりの段階では、むしろ芽を伸ばし放題にして木を大きくすることが優先です。芽切りは、樹形の骨格ができて「これから葉を締めていく」段階の木に対して行う、仕上げ寄りの作業だと考えてください。
老木・古木
長年作り込まれた古木も、樹勢が落ちていることが多く、無条件では芽切りできません。
古木は体力の回復が遅いため、健康な壮年の木と同じ感覚で芽切りをすると、二番芽が弱々しくしか出ず、木を傷めます。古木の場合は、全体を一度に切らず、勢いのある部分だけを選んで切る、あるいは二年に一度に留めるなど、負担を減らす工夫が必要です。
芽切りの時期|「7月」の一言では足りません
基本は6月下旬〜7月中旬
黒松の芽切りの適期は、多くの地域で6月下旬から7月中旬です。この時期に切ると、二番芽が夏のうちに伸びて、秋までにしっかり固まります。
なぜ時期が重要かというと、遅すぎると二番芽が固まりきらないまま秋を迎え、冬の寒さに耐えられなくなるからです。早すぎると、二番芽が長く伸びる時間を得てしまい、葉を短くする狙いが薄れます。
地域と樹勢で前後する
「6月下旬〜7月中旬」はあくまで目安で、実際には地域の気候と木の樹勢でずらします。
暖かい地域では早めに、寒い地域では遅めに。これは、二番芽が固まるまでの期間を秋までに確保するためです。寒冷地であまり遅く切ると、二番芽が未熟なまま冬に入ってしまいます。
遅らせる・早めるの判断
樹勢の強い木は、少し遅めに切っても十分二番芽を出す力があります。逆に、健全だが特別強くはない木は、早めに切って二番芽の生育期間を長く取ってやります。
また、一本の木のなかでも、強い枝と弱い枝で切る時期をずらす上級者もいます。強い芽を先に切り、弱い芽を遅れて切ることで、二番芽の勢いを木全体で揃える技法です。初心者のうちは、まず木全体を適期の範囲で一度に切る、で構いません。
芽切りのやり方
用意するもの
よく切れる芽切り鋏、または清潔なハサミ。切り口を潰さない、切れ味のよいものを使ってください。切れ味の悪い鋏は切り口を傷め、そこから枯れ込む原因になります。
どこで切るか

その年に伸びた新芽(ろうそく)を、根元から切り落とします。基本は、新芽が展開して伸びきった部分を、付け根近くで切除します。
このとき、切り口の位置に古い葉(前年の葉)を数本残すのが大切です。二番芽は、残した葉の付け根付近から吹きます。葉を一枚も残さず切ると、芽を吹く場所を失って枯れ込むことがあります。
強い芽と弱い芽で切り方を変える

黒松は、木の上部と先端ほど芽が強く、下部と内側ほど芽が弱くなる性質があります。これを放っておくと、上ばかり茂って下枝が枯れる「上強下弱」に陥ります。
これを防ぐため、強い芽(上部・先端)は残す葉を少なめにして勢いを抑え、弱い芽(下部・内側)は残す葉を多めにして力を残す、という調整をします。すべてを均一に切るのではなく、木全体の力のバランスを整えるつもりで切るのがコツです。
初心者のうちは細かい調整より、「上は強めに、下は優しく」という大まかな意識で十分です。
芽切り後の管理
水やりは控えめに
芽切り直後は、木が一時的に葉を失った状態です。葉が減ると水の吸い上げも減るため、この時期に普段どおり水をやると過湿になりがちです。切り口が乾いて落ち着くまでの数日は、やや控えめにします。ただし真夏ですから、乾かしすぎは禁物。鉢の重さで判断してください。
肥料は約1ヶ月止める
芽切り後、二番芽が動き出すまでの約1ヶ月は肥料を止めます。切り口が回復していない時期に肥料を効かせると、根を傷めます。二番芽が伸びて葉が展開してきたら、固形油かすを鉢の縁に置いて施肥を再開します。この時期の肥料が、秋の充実と二番芽の固まりにつながります。
二番芽は触らない
切り口から二番芽が複数吹いてきますが、この段階では触りません。「芽が多すぎるから減らそう」と間引くのは、芽が固まる9月中旬以降です。夏の柔らかい二番芽は、触れば傷みます。じっと見守ってください。
よくある失敗と対処
二番芽が出ない。 最も多い失敗で、原因はたいてい樹勢不足です。弱い木に芽切りをすると、吹き直す体力がなく枝が枯れ込みます。出てしまった結果は戻せません。翌年以降、その木は芽切りを見送り、施肥と日照で樹勢を回復させることに専念してください。
二番芽が長く伸びてしまう。 芽切りの時期が早すぎたか、肥料が効きすぎている可能性があります。翌年は時期を適期の後半にずらし、芽切り後の施肥再開を焦らないようにします。
切り口から枯れ込んだ。 葉を残さず切った、鋏の切れ味が悪かった、のいずれかが多い原因です。次回は古い葉を数本残し、よく切れる鋏を使ってください。
上ばかり茂って下枝が弱った。 強い芽と弱い芽を均一に切ったために起こります。翌年は上部を強めに、下部を優しく切る調整を意識してください。
赤松・五葉松は芽切りする?
黒松と同じ松でも、芽切りの扱いは樹種で違います。
赤松は黒松と同じく芽切りをしますが、黒松よりすべて控えめにします。赤松は繊細で、黒松と同じ強さで切ると弱ります。二番芽も黒松より小さく少なめに出るのが標準です。
五葉松は芽切りをしません。ここは初心者が必ず間違えるところです。本に「7月に芽切り」と書いてあっても、それは黒松・赤松の話。五葉松に芽切りをすると木が弱ります。五葉松は芽摘み(春の芽を手で摘む)と古葉取り(秋)で葉を整えます。
「松=芽切り」ではなく、「黒松と赤松は芽切り、五葉松はしない」と覚えてください。
まとめ|芽切りを成功させる4行
黒松の芽切りは、切り方より「切っていい木かの見極め」が成否を分けます。
- 切っていいのは、春の芽が力強く伸びる健全な壮年木だけ
- 樹勢の弱い木・太らせ中の若木・古木は切らない
- 時期は6月下旬〜7月中旬、地域と樹勢で前後させる
- 切ったら1ヶ月は施肥を止め、二番芽は9月まで触らない
ハサミを持つ前に、まず自分の木の芽の勢いを見てください。太くしっかりした芽が全体に伸びていれば、芽切りの資格ありです。自信が持てないなら、その年は見送って樹勢を養う。それも立派な判断です。無理に切って一年を失うより、確実に育てて翌年に備えるほうが、黒松づくりの近道になります。



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